この世で俺/僕だけ

2015年1月31日(土)ユーロスペースにてレイトショー公開!

緊張と笑いの、リズムと脱線の、そして青春と犯罪の危ういバランスが絶品!よほどの天才か無法者が作ったに違いない ー黒沢清(映画監督)

自由の訴え、政治への訴え、そして自分が正しいと思った事をやり通す。まさにパンクな映画でした!ーIMALU(タレント・アーティスト)

TRAILER

Facebook

INTRODUCTION

山下敦弘監督の『苦役列車』からNHK朝ドラ『花子とアン』まで。稀代の才能で、マルチな芸人としてのみならず俳優として抜きん出た存在感を発揮しているマキタスポーツ。そして、『愛の渦』『大人ドロップ』『僕たちの家族』『海を感じる時』『紙の月』と、2014年は毎月のように新作が公開され、主演、助演にかかわらず、唯一無二の印象をスクリーンに刻みつける日本映画の申し子、池松壮亮。いま、旬のふたりが顔をあわせたら?

映画『この世で俺/僕だけ』は、その骨太なタイトルが証明しているように、マキタ/池松という「映画的ドッキング」を、これ以外にはないかたちで視界におさめた強力なパンチ作である。

顔面を腫らしたふたりの男が荒野を歩いていく。ひとりはスーツ姿のしがない中年男。もうひとりは、学ランを羽織った不良少年。本来、同じ場所にいるはずのない男たちが、決して馴れ合うことなく、けれども真っ直ぐ同じ志で歩いていく――

獰猛な、ある種の予感だけを叩きつける映画の幕開けに導かれるように、わたしたちは直感に満ちた物語を体験することになる。

STORY

かつてバンドを組み、パンクな魂と共に生きていた伊藤博(マキタスポーツ)。彼のこころにはいまも「弾丸アームストロング」という曲が鳴り響いているが、現実は、上から押しつけられる仕事を淡々とこなす、中年サラリーマンのしがない日常が転がっているだけだった。仲間と一緒に、カツアゲをつづけている不良高校生、黒田甲賀(池松壮亮)。彼の根底にあるのは、警察官の父親、晃司(羽場裕一)への屈折した想いだったが、それを吐き出す機会はなかなか訪れなかった。

縁もゆかりもないふたりは、けれども、ある朝、同じテレビ番組で、ある「ラッキーアイテム」に出逢う。伊藤は、その「ラッキーアイテム」に従って、コンビニの前に停めてあった車を強奪。それを「感じた」甲賀も、突き動かされるように、バイクで車を追った。甲賀は伊藤を捕まえ、車の主に、車を返そうとするが、車の後部座席に置かれた段ボール箱に赤ん坊がいたことから、異変を感じる。

車の主である、怪しげな男は、ほんとうにこの子の父親なのか?

取り引き現場に現れた、強面の男たちから、直感で逃げ出す伊藤と甲賀。ふたりは、やがて、赤ん坊が、この街の再開発に反対する政治家、大隈泰三(野間口徹)の子供であり、彼の立候補を阻もうとする市長、犬養亨(佐野史郎)の指示で、ヤクザ、浜口英雄(デビット伊東)が行なった偽装誘拐であることを知る。

このままでは、自分たちが誘拐犯に仕立て上げられてしまう!
思い切って晃司に連絡したものの、警察さえも味方にはなってくれないことを直感した甲賀は、伊藤と共に、自力で大隈の許に、赤ん坊を届けることを決意。
こうして、伊藤と甲賀の、果てしない逃避行がはじまった。

CAST

伊藤 博[サラリーマン] マキタスポーツ
伊藤 博[サラリーマン] マキタスポーツ
1970年1月25日生まれ、山梨県出身。
2012年に公開された山下敦弘監督作品「苦役列車」の好演がきっかけで第55回ブルーリボン賞新人賞・第22回東スポ映画大賞新人賞をダブル受賞し、俳優という側面から世間を騒がせた。
主な出演作品に、映画では「アウトレイジ」[監督:北野武](10)、「苦役列車」[監督:山下敦弘](12)、「ゴーストバンド」[監督:月川翔](13)など多数。
黒田甲賀[不良高校生] 池松壮亮
黒田甲賀[不良高校生] 池松壮亮
1990年7月9日生まれ、福岡県出身。
2003年に、ハリウッド映画「ラストサムライ」で映画初出演。主人公(トム・クルーズ)と心を通わす少年“飛源”を演じて、繊細で自然体な演技が絶賛された。
主な出演作品に、映画では「愛の渦」[監督:三浦大輔](14)、「大人ドロップ」[監督:飯塚健](14)、TVドラマでは「MOZU」など多数。
犬養 亨[ちばらぎ市長] 佐野史郎
犬養 亨[ちばらぎ市長] 佐野史郎
1955年3月4日生まれ、島根県出身。正統派の演技から、知的ながらもどこか狂気を宿した演技まで幅広い役柄を安定してこなす実力派俳優として、数多くの映画やTVドラマに出演。主な出演作品に、映画では「太陽」[監督:アレクサンドル・ソクーロフ](06)、「HAYABUSA/はやぶさ」[監督:堤幸彦](11)、「オー! ファーザー」[監督:藤井道人](14)など多数。
大隈泰三[政治家] 野間口 徹
大隈泰三[政治家] 野間口 徹
1973年10月11日生まれ、福岡県出身。1999年、コントユニット【親族代表】を結成。外部公演の客演にも精力的に参加している。主な出演作品に、映画では「謝罪の王様」[監督:水田伸生]、「陽だまりの彼女」[監督:三木孝浩]、「ホットロード」[監督:三木孝浩]など多数。
浜口英雄[ヤクザ] デビット伊東
浜口英雄[ヤクザ] デビット伊東
1966年8月12日生まれ、埼玉県出身。主な出演作品に、映画では「山形スクリーム」[監督:竹中直人](09)、「宿命のジオード」[監督:六車俊治](10)、「臨場 劇場版」[監督:橋本一](12)など多数。
山本登志男[ヤクザ] 高橋 努
山本登志男[ヤクザ] 高橋 努
1978年8月23日生まれ、東京都出身。主な出演作品に、映画では「その夜の侍」[監督:赤堀雅秋](12)、「ペタルダンス」[監督:石川寛](13)、「彼女との上手な別れ方」[監督:平川雄一朗](14)など多数。
寺内智美[高校教師] 千葉雅子
寺内智美[高校教師] 千葉雅子
1962年5月16日生まれ、東京都出身。90年に【猫のホテル】を結成。作・演出・役者として幅広く活躍。主な出演作として、映画「ブラック会社に勤めているんだが、もう僕は限界かもしれない」[監督:佐藤祐市]など多数。
松方英毅[不良高校生] 菊田大輔
松方英毅[不良高校生] 菊田大輔
1988年12月1日生まれ、東京都出身。主な出演作品に、映画では「篤姫ナンバー1」[監督:小中和哉](12)、「劇場版 トリハダ」[監督:三木康一郎](12)、「万能鑑定士Q モナ・リザの瞳」[監督:佐藤信介]など多数。
桂 尚人[不良高校生] ガンビーノ小林
桂 尚人[不良高校生] ガンビーノ小林
1972年11月13日生まれ、北海道出身。主な出演作品に、映画では「莫逆家族」[監督:熊切和嘉](12)、「SR サイタマノラッパー3」[監督:入江悠](12)、「ナイトピープル」[監督:門井肇](12)など多数。
山縣 明[不良高校生] 駒木根隆介
山縣 明[不良高校生] 駒木根隆介
1981年5月2日生まれ、東京都出身。09年に公開された主演映画「SR サイタマノラッパー」[監督:入江悠]で、ダメニートラッパーIKKUを好演。
若槻カヲリ[占いアイドル] 南 明奈
若槻カヲリ[占いアイドル] 南 明奈
1989年5月15日生まれ、神奈川県出身。主な出演作品に、映画では「呪怨 白い老女」に主演、TVドラマでは「こうのとりのゆりかご」(13)、「ホワイト・ラボ」(14)など多数。
原 大輔[サラリーマン] 鈴木 拓(ドランクドラゴン)
原 大輔[サラリーマン] 鈴木 拓(ドランクドラゴン)
1975年12月7日生まれ、神奈川県出身。主な出演作品に、映画では「真夏のオリオン」など多数。

STAFF

監督 月川 翔
監督 月川 翔
1982年8月5日生まれ。東京芸術大学大学院映像研究科 修了。在学中、黒沢清・北野武教授のもと『心』など4作品を監督。
ウォン・カーウァイ、ソフィア・コッポラらが審査員を務めた「LOUIS VUITTON Journeys Awards 2009」にて審査員グランプリ、また映画『グッドカミング~トオルとネコ、たまに猫~』では「Short Shorts Film Festival & Asia 2012」ミュージックShort部門シネマティックアワード・優秀賞を受賞。ミュージックビデオやCM、ショートフィルム、長編作品『ビタースウィート~オトナの交差点』の監督・脚本などを手掛けている。

【監督】月川 翔 インタビュー

 それぞれのキャラクターが、信念の結果、行動する。それがまた別のある行動を引き起こす。それをただただ見せていく映画です。
 ひとは、そのひとの過去によって行動しているわけではない。とにかく説明のないアクションのなかで全部やりたかった。  この物語は合理的ではありません。すべてが直感で始まっています。これまで生きてきた蓄積で判断すること。それが直感だと僕は考えています。ふと立ち止まったとき、あ、自分は「だから」動いていた、と気づく。なぜ、自分の直感はこう働いたのか。そこに気づく。だから、この物語は答えが常に「先送り」になっているのだと思います。
 この赤ちゃんを、無事に、正しい父親に返さなければいけない。さあどう行動しようか。とにかく全部、直感だけ。そうして、ふたりが辿り着いたのが、「自分が正しいと思うことをするしかない」ということ。結局、僕は彼らに「理由をつける」ことを放棄していたのかもしれません。あくまでも、ふたりが直感を積み重ねていった結果、ああなったのだと思っています。

 彼らの正義は、急に発露する。誰かに押しつけられていた正義を守ろうとしていたわけではない。俺の正義はこれだ、とこだわっていたわけでもない。ただ、彼らの正義は内在していた。それがたまたま発露して、一致して、団結しただけです。
 「俺」と「僕」はそれぞれ独立していて、目的が一緒だったから支え合った。これは、その結果でしかありません。ふたりは別に仲良くなって一体化したわけではない。「俺」と「僕」は完全に分かれている。チームじゃない。だから、これはバディ・ムービーではありません。あくまでも「俺/僕」のままです。
 ぶっきらぼうに終わりたいと思いました。主人公を甘やかしたくなかった。ふたりは、明らかに社会のルールは犯しているから、断罪はする。ただ、捕まることは彼らにとって大した問題ではない。ふたりには他にもっと大切なものがあった。それに向かって行動しただけ。そして、その結果は自己責任で受け入れる。彼らの生き様が見ていて気持ち良いといいなと願っています。

取材・構成:相田冬二

COMMENT

パンクって知ってるかい?

金原 由佳(映画ジャーナリスト)

 パンクって音楽シーンで語られることが多くて、1970年代には、ステージの上から贓物(ぞうぶつ)を観客席に投げ入れたとか、とっても個人的なセクシャルなことをみんなの前でおっぴろげちゃったとか、ギターを投げ捨てたり、ドラムスティックを投げ折ったり、ベースを叩き壊したり、衝動に任せてステージから観客席に飛び降りて脚とか手足とかを骨折したり、とにかくライブに行くと日常ではありえないくらい危ない出来事が始まって、「うわ、こんなことまで起きるんだ」と驚かされたり、怒ったり、叫んだりするようなエピソードがたくさんあって、それで「これってパンクだね」と一言で済まされてしまうことが多いんだけど、そういうことじゃないんだよ。
 というのが、『この世で俺/僕だけ』が描いていることである。パンクっていうのは反骨の精神である。1967年、ニューヨークのヴェルヴェット・アンダーグラウンドはアルバム「The Velvet Underground & Nico」の中でそれまでタブー視されていたドラッグやセックスについて大っぴらに歌い、1976年にデビューしたイギリスのセックス・ピストルズはイギリス王室や政府や大手企業を名指しで攻撃して、シャウトした。彼らのやったことは世界中に波及していって、今や別にバンドマンにならなくてもパンクの精神は持ち得ることはできる。校則の厳しい進学校の女子高生たちが、先生たちの無知を逆手にとって、体育の時間にザ・スターリンの曲で素敵な創作ダンスを踊るのもひそかな反骨の表れだし、何年か前、長い黒髪に清楚な外見の10代の女優さんの部屋の本棚に、「奇形児」「あぶらだこ」「猛毒」「INU」「ザ・スターリン」「村八分」「西岡恭蔵」「ルースターズ」といったパンク魂があふれるアーティストのアルバムが並んでいたのがテレビでオンエアされたのも、彼女がただ、ニッコリ笑ってかわいいだけの都合のいい美少女じゃないことを証明していて、これをパンクと言わずしてなんて言おうか。
 権力者に決して飼いならされないぞと、従順な者として生きることを断固拒否すること。そう、従順ならざる者になること。でも、ただの無法者になるのではなく、オリジナルになるために自分の手ですべて築き上げるDIY精神を持っていること。それが、パンクであるということだ。そして、『この世で俺/僕だけ』は、日常に流されていた、普通の男たちがまさにパンク魂を持ち得るものとなる過程を、サイレント期の映画のスラップスティック・コメディとして成立させることを目指した挑戦作と言えるだろう。
 マキタスポーツ演じる「ちばらき損保」の伊藤48歳は、年齢的に、1970年代のパンクブームが、80年代になってYMOやヒカシューといったテクノバンドに駆逐されていくのをみたギリギリの世代に違いない。彼が大人となってパンクをやっているときにはもう、町田町蔵は役者となって文章も書いていた。そんな彼は理由あって音楽をやめ、どうみても無能な上司に文句ひとつ言わず、企業の犬として、黙々と自分の時間を捧げ、働いている。
 一方、池松壮亮が演じる黒田18歳は、根は素直でよさげな若者であるが、この年齢の若者にありがちな、ただ漠然と、親世代へ唾を吐き、反抗して、グレている。彼は「JAGATARA」の江戸アケミの名前すら、きっと知らない。でも、シャッター街として朽ちていくだけの運命をただただ静観している大人たちに融合するような精神は持ち合わせていないし、だからといって、利権の絡んだ大型商業施設の進出にもろ手を挙げて融合する素直な若者でもない。わけのわからないエネルギーのぶつけ先が、市長選に絡んだ赤ん坊誘拐事件と重なって、伊藤と黒田の「従順ならざる者」のスイッチを押すのである。「この世で俺/僕だけ」しか、この赤ん坊を救う者はいない。その自立自助の精神はまさにパンクだ。権力に頼るな、もたれかかるな、大人のしがらみに絡み取られるな、責任を放棄するな。だから俺と僕はひたすら走って逃げて、殴られ、でも、それでも立ち上がる。うん、いいんじゃないだろうか。
 ただ、ひとつだけ文句を言うと、若き日の伊藤の歌うパンクのメロディがスィート過ぎる。もうちょっと、シャウト系でブラックだったら、よかったな。パンクの終焉に10代の女子高生だった身として、ここはちょっと辛口。

THEATRE

東京都 ユーロスペース(渋谷) 2015年1月31日(土)〜
大阪府 シネマート心斎橋(大阪市) 2015年2月21日(土)〜 3月6日(金)
兵庫県 元町映画館(神戸市) 2015年3月14日(土)〜 3月27日(金)
京都府 京都みなみ会館(京都市) 2015年3月14日(土)~ 3月27日(金)
福岡県 中州大洋劇場(福岡市) 2015年3月14日(土)~ 3月20日(金)
愛知県 名古屋シネマテーク(名古屋市) 2015年4月4日(土)~ 4月10日(金)
神奈川県 シネマジャック&ベティ(横浜) 2015年5月23日(土)~5月29日(金)

TOP